バーベキュー好きの社長が発想し、
町工場の技術が生んだ“炭火焼きトースター”

 

日本には世界に誇る技術をもつ町工場が数多く存在し、近年ではそうした中小の工場が高い技術力を活かして独自の商品を開発する動きも見られます。数多くの工業事業所が集う「ものづくりのまち」、ここ神奈川綾瀬市で生まれた「Sumiシリーズ」は、まさに町工場の技術から生まれた最高に“おいしい”プロダクト。

トーストをはじめ肉や野菜など、カーボンの遠赤外線効果でどんな素材もおいしく調理できる失敗しらずの万能プレート&鍋。いま話題の「Sumiシリーズ」の人気の秘密を探るべく、開発・製造元の旭工業有限会社を訪ね、代表取締役の嶋知之さんにお話を聞きました。

日本でも数少ない老舗カーボン加工メーカー

東京の墨田区や大田区に負けない、高い工業技術力を持つ町工場が多く集まる神奈川県綾瀬市。市内で形成される4つの大きな工業団地の一つである早川工業団地内で、旭工業は昭和31年から操業を続けています。

「当社は日本でも数少ないカーボン加工専門メーカーで、創業者である祖父から数えると私で4代目となります。カーボンの鏡面仕上げ加工やワイヤー放電加工など、独自の高い技術を強みとし、機械装置の摺動部品などに使われる機械用カーボン製品や、鋳型などの一般カーボン製品の製造を行ってきました」

そう話す嶋さんの説明によると、潤滑性や通電性、そして熱に強いのがカーボンの特徴。金や銀なら1000℃程度、鉄でも1600℃程度で溶けるのに対し、なんとカーボンは2000℃以上の熱でも溶けることがないのだとか。

「カーボンにもいくつかの種類がありますが、当社が扱うのは人造黒鉛(コークス)を焼き固めたグラファイトと呼ばれるもの。3000℃で熱処理して不純物を燃焼・気化させるのでその純度は99.9%にもなり、半導体をつくる装置や純金のインゴッドを成形する鋳型などにも使われています」

実は鉛筆やシャープペンシルの芯などもカーボンからできるもの。まさに工業製品から身近な日用品まで、私たちの暮らしに欠かせない素材であるカーボンを使い、調理用のプレートをつくろうと嶋さんが考えたのは、今から5年ほど前のことでした。

▲綾瀬市の早川工業団地内にある旭工業
▲創業65年の工場を4代目として継ぐ嶋さん

遠赤外線効果に注目したバーベキュープレート

「Sumiシリーズ」誕生のきっかけとなったのは、嶋さんの趣味であるバーベキューでした。嶋さんは約10年前に、一般社団法人日本バーベキュー連盟が認定するバーベキューアドバイザーとバーベキューエキスパートの資格を取得。その際、「バーベキューで炭を使う理由」や「遠赤外線効果」について学ぶうち、「自社で扱うカーボンをバーベキュープレートに応用できるのではないか」とひらめきます。

「たとえば鉄を加工するための工業炉のヒーターなどにも、カーボンの遠赤外線効果が利用されています。そうしたこともあって、これで肉を焼いたらおいしいんじゃないかと。工場にあった端材をプレートにして肉を焼いてみると、実際にとてもおいしかったんです」

そうして生まれたバーベキュープレートは、当時、綾瀬市が始めたばかりのふるさと納税の返礼品に。他にも、本業の傍らでごく少量のみ製造された商品が、工場でのみ直販されることになりました。

それから数年後、綾瀬市の工場が持つ高い技術で新商品を生み出すことを目的とした「あやせものづくり研究会」プロジェクトが、市の主導で発足。カーボンの調理用プレートに可能性を感じていた嶋さんも同プロジェクトに参加します。

「私たちには祖父の代から培ってきた高い技術がありますが、どんな製品をつくっているのかと聞かれると答えるのが難しいところがあります。ですから自分の代では、たとえば自分の子どもに自慢できるような、より職人たちが誇れるような製品を開発して、事業の柱に育てたいという思いがあった。そこでプロジェクトに応募して、本格的な商品開発にチャレンジすることにしたのです」

そして機能はもちろん高いデザイン性を実現しながらいかに価格を抑えるかなど、試行錯誤を繰り返すこと約2年。2018年には遂に初代「Sumiシリーズ」が誕生。当時は15センチと20センチの万能プレート2種類と、鍋の3アイテムでスタートしました。

▲旋盤と呼ばれる機械で素材のグラファイトをカット
▲こちらも旋盤を使って鍋の形に削り出していく
▲20台以上の機械が並ぶ工場で約20名の職人たちが作業する

外はカリッと、中はジューシーに仕上がる秘密は?

「Sumiシリーズ」のプレートや鍋がなぜ素材をおいしくしてくれるのか、その秘密は「カーボンの遠赤外線効果にある」と嶋さんは説明します。

「遠赤外線は、物の表面にエネルギーを当てて膜をつくる作用をします。つまり、高い遠赤外線効果を持つカーボンで加熱すると、素材の外側をパックして水分を閉じ込めることができる。だから野菜でも肉でも焦げることなく、外はカリッと中はジューシーに焼き上げることができるのです」

たとえばバーベキューで炭を使って野菜を焼き、焦がしてしまったという人は多いはず。カーボンプレートならそんな失敗は一切なし。しかも熱伝導に優れているため火の通りが早く、蓄熱性が高いために鍋では火を消しても長くグツグツと煮込むことができます。

焼いたり煮込んだり、とにかくシンプルに調理するだけで、なんでもおいしくしてしまう魔法のような万能調理器具。素材のカーボンは10万円を越える高級炊飯器の釜などにも使われているもの。もちろん深鍋などはお米を焚くのにもおすすめです。

とはいえ、嶋さんによると発売当初はそれほど売れ行きが伸びなかったのだとか。

「本当に何を焼いてもおいしいので万能プレートとして売り出したのですが、なかなか振り向いてもらえませんでした。そこで『一つの素材に特化するのがいいのではないか』と。社員のみんなに『何を焼いたときが一番おいしかった?』と聞いたところ、全員が一番にトーストと答えました。それならトースターをつくろうと、デザインをブラッシュアップしながらいくつもの試作品をつくり、昨年の12月にSumi Toasterを発売したんです」

そうしてシリーズに加わったSumi Toasterが、料理好きやおいしいもの好きの人たちの注目をじわじわと集め、いまや人気のアイテムに。

「遠赤外線効果でトーストの外側がカリッとパックされ、水分を97%まで保つことができるのでまさにふかふかの食感が楽しめます。両面を焼く必要があるので少し手間はかかりますが、ご愛用の方にはそうしたひと手間も愛おしく思っていただけているようですね」と、嶋さんが嬉しそうに教えてくれました。

▲「Sumi Toaster」の完成までにはさまざまな試行錯誤があった
▲手前は「Sumi Nabe」。その横に並ぶのはトースターの試作品
▲鍋の断面。約1センチと肉厚だが軽さは鉄の4分の1と軽量。

日々の暮らしに、“シンプルで美味しい”という贅沢を

旭工業の社員は30代を中心に35名、そのうち約20名の職人さんが忙しく作業をする工場では、大小さまざまな20台以上の機械を使ってカーボンの加工を行います。

現在では、素材のカーボンを回転させながら削っていくNC旋盤や、精密に彫り込んでいくマシニングセンタなどの機械を使った「Sumiシリーズ」専用のラインも整備。とはいえ、1日に製造できるのはSumi Toasterだけで50個ほど。削りから磨き、工業製品並みの検品にいたるまで、熟練の技術を持つ職人さんたちが一つひとつを丁寧に仕上げていきます。

「忙しい工場なので、最初は社員のみんなも『どうしてこんなものをつくるんだ』と思ったかもしれません(笑)。でも最近では誰もが乗り気で、商品を使ってくれたお客さんからの反応などをとても喜んでくれています。いまはトースターが好評ですが、『Sumiシリーズ』を使えばなんでもおいしくなりますからね。たとえばレストランなどで使ってもらったり、現状の商品を広めていくのと同時に、今後はさらにラインナップも増やしていきたいと考えています」

▲左上:Sumi Toaster、右上:Sumi Ita grill、左下:Sumi Nabe、右下:Sumi Fuka Nabe

現在、ストーリー セゾンで選べるのは、一人用トースターの「Sumi Toaster」に、本格的な料理に使える長方形プレートの「Sumi Ita grill」、そして焼く・煮る・蒸すを一台でこなしてくれる「Sumi Nabe」に、炊飯や煮物にうってつけな「Sumi Fuka Nabe」の4アイテム。

シンプルに調理するだけで驚きの食感が味わえる、まさに魔法のような万能プレート&鍋。日本の町工場の高い技術力が詰まった「Sumiシリーズ」を、ぜひあなたのキッチンに取り入れてみませんか。

▲精密な動きをするマシニングセンタによるトースターの削り作業
▲一つひとつを職人が磨き仕上げていく
▲工場内の事務所に飾られていた「Sumi Toaster」
▲旭工業で働くみなさん。中央右が嶋さん