東京・練馬で生まれた「東京麦茶」
三代目社長が受け継ぐこだわりの製法とは

 

麦茶の歴史は意外と古く、平安時代に「貴族の飲み物」として登場し、江戸時代には麦湯として広く普及したと言います。ノンカフェインなので小さなお子さんがいるご家庭でも安心して飲めるうえ、どこか懐かしく香ばしい麦の香りは、ほっとひと息つきたいときにもぴったりです。

そんな伝統となじみのある麦茶を東京でつくり続けるのが、東京都練馬区にある川原製粉所です。3年ほど前から、自社ブランドの「東京麦茶」を販売しています。「一度飲めば病みつきになる」と多くのリピーターを生んでいる「東京麦茶」のおいしさの秘密を、三代目として同製粉所を受け継ぐ川原渉氏にうかがいました。

創業80年の製粉所がつくる「東京麦茶」

いまでも住宅街に小さな畑が点在する練馬区羽沢。数十年前までは米や麦を栽培する畑が一面に広がっていたというこの地で、川原製粉所が創業したのは1940年(昭和15年)のこと。

「近所の農家で栽培される農作物を加工する工場として、祖父が創業したのが川原製粉所のはじまりです。創業当時と変わらず、現在も麦茶やきな粉、米菓子の原料などを昔ながらの製法でつくっています」

川原氏によると、昔は東京でも多くの工場で麦茶がつくられていたものの、いまでは2、3軒にまで減少しているのだとか。3人兄弟の次男として生まれた川原氏が製粉所を継いだ背景にも、東京の麦茶を残したいという思いがあったのだと言います。

▲創業80年の川原製粉所を継ぐ三代目社長、川原渉氏

「幼いころから遊び場にしていた製粉所を、いずれは自分が継ぐのかなと漠然と思ったことはありました。しかし、大学を卒業してからは一般企業に勤め、普通のサラリーマンになる道を選びました。ところが、ビジネスを学ぶうちに、祖父や父が大事に残してくれた設備があって、うちの麦茶じゃなくてはだめだというお客さんがいるのに、父の代で終わりにしてしまうのはもったいないと思うようになったんです。東京でこんなにおいしい麦茶をつくっていることを、より多くの皆さんに知ってもらいたい。その思いから製粉所を継ぐ決心をしました」

▲東京麦茶を製造する川原製粉所

創業当時から地元のお茶屋さんなどで販売され、根強いファンを持つ川原製粉所の麦茶。2017年ごろからは「東京麦茶」として自社ブランドの発売も開始。通常の麦茶とは一線を画すその味わいや香りが、食や暮らしにこだわる人たちの間でじわじわと評判に。そんな「東京麦茶」のおいしさの秘密について川原氏に尋ねると、「創業当時から変わらない砂釜焙煎によるものでしょうね」と明かしてくれました。

砂釜焙煎だからこそ実現する、おいしさのわけとは?

麦茶は殻付きのまま焙煎した大麦を、湯で煮出したり煎じたりしてつくります。原料となる大麦をどのように焙煎するかによって、香りや味わいが大きく変わるのだとか。

たとえば大手メーカーで販売される一般的な麦茶の場合、熱風を当ててムラなく効率的に大量の大麦を焙煎できる“熱風焙煎”が基本です。一方、川原製粉所で行われる“砂釜焙煎”は、レンガ造りの石窯で熱した砂に大麦を通し、遠赤外線効果によって焙煎していきます。

▲レンガ造りの石窯(手前)で行う砂釜焙煎が創業当時からのスタイル
▲1次焙煎が終わり、2次焙煎に進む直前の大麦

「砂釜焙煎ではその日の気温や湿度、麦の水分量などによって細かな調整が必要になります。熟練した職人が時間をかけて焙煎するので大量生産こそできませんが、遠赤外線の効果で麦が大きく膨らんで表面積が増えるので、お茶にしたときに本来の麦の香味を余すところなく引き出せるのです」

そう話す川原氏に見せてもらった焙煎後の麦は、焙煎前と比べて2倍ほどの大きさに膨らんでいました。

▲一般的な熱風焙煎がされた大麦(左)と比べても、川原製粉所で砂釜焙煎された大麦(右)は大きく膨らんでいることがわかる

「均一に熱を加えて焙煎できる熱風焙煎とは違い、砂釜焙煎では麦に色むらが出ます。実はこの色むらも重要で、色の薄い部分はお茶にしたときの麦の甘みに、色の濃い部分は強い香りや複雑な味わいのもとになるんです」

さらに、一度の焙煎では色むらが激しくなってしまうため、2つの釜で2回に分けて焙煎するのも「東京麦茶」のこだわりです。

「大手メーカーが1日に25トンほど生産するのに対し、当社では最大でも1日800キロか900キロ程度しか生産できません。すべて職人による手作業で、じっくりと手をかけてつくるからおいしい麦茶ができるんです」と川原氏は言います。

安心して味わってほしい。だから国産、無農薬の麦にこだわる

原料に使用するのは貴重な国産大麦のみ。さらに宮城県で農業を営む久保勇さんが無農薬で手間暇かけて栽培した六条大麦だけが「東京麦茶」に使用されます。

「粒の大きさや形が均一な外国産大麦に対して、国産の大麦は大きさが不揃いだったり、焙煎するのが難しかったりする部分もあります。とはいえ、久保さんの麦でつくる麦茶の味わいは格別です。何より、小さなお子様からお年寄りまで、ご家族で安心して飲んでもらいたいので、今後も国産や無農薬栽培の大麦にはこだわりたいと思っています」

▲「東京麦茶」の原料に使用される六条大麦

「夏は地獄のような暑さで大変なんですよ」。そう微笑む川原氏に案内してもらった工場内には、石窯の熱気とともに、香ばしい麦の焙煎香が漂います。

「少し専門的な話になりますが、コーヒーやお茶の焙煎ではよく“焦げる寸前が一番おいしいしい”と言われます。焙煎して色が付き始めると、そこからは急に炭化して焦げてしまいますが、その手前がおいしい状態なんです。だから焙煎中は麦の色味を見極めながら、釜に投入する麦の量を調整するのですが、それがとても難しいんです」

▲焙煎された大麦の色合いを見極め、投入量を調整する
▲もっともおいしくなる“焦げる寸前”を狙って焙煎する

麦茶の焙煎ができる“一人前の職人”と呼べるのは、製粉所でも川原氏の父である会長の義明氏とベテランの職人さんの2人だけ。川原氏や他の職人さんは、まだ見習いのようなものなのだとか。

「麦茶だけをつくり続けて一人前になるのに5年以上はかかる。そのまま香りや味わいに直結する麦茶の焙煎は、それくらい難しいんですよ」と川原氏が教えてくれました。

家族の団らんにも、大切な人へのギフトにも

東京の小さな製粉所で、伝統の製法や原料にこだわり、熟練の職人が丹精を込めてつくりあげる「東京麦茶」。商品は煮出し専用の粒麦茶である「丸つぶ」と、水出しできるティーパックタイプの2種類があります。

「香りの良さやすっきりとした後味など、麦茶を一番おいしく飲めるのは丸つぶでの煮出しです。おいしく煮出すには、水の段階から粒をやかんなどに入れて火にかけ、沸騰する前に火を弱めるのがポイント。気軽に楽しんでいただけるティーパックタイプでも、麦を少し濃い目に焙煎するなど『東京麦茶』の風味を存分に楽しんでもらえる工夫をしています」と川原氏。

▲煮出して飲むタイプの「東京麦茶 丸つぶ」は、紅茶のようにティーポットで淹れてもOK
▲水出しできるティーパックタイプはギフトやお持たせにも最適

香ばしいという言葉だけでは表現しきれない、麦の旨味や深いコクまでを感じさせる香りとほのかに広がる麦の甘みは、まさに一度飲めば病みつきになるおいしさ。妊婦さんや小さなお子様がいるご家庭へのギフトにもぴったりです。

毎日の家族の団らんを、ほっこりと豊かにしてくれる「東京麦茶」。普段飲むものだからこそ、安心とおいしさにこだわりたい。そんな想いに応えてくれる、東京生まれのこだわりぬいた麦茶をぜひみなさんもお試しください。

▲川原製粉所で働く職人の皆さん。中央が川原氏